「ほら、あおくん、こっち、こっち」
「■■ちゃん」
僕は必死で立ち上がって、おぼつかない足取りでよちよちと歩く。
「ほら、がんばって、もうすこしだよ」
「■■ちゃん、まってえ」
何度も手をつきながら。
何度もひざを曲げながら。
ぱしゃり。じー。
「ほらー、がんばったね、はい、あんよをがんばったあおくんだよ」
「■■ちゃん」
「ふふ、これはわたしじゃなくて、あおくんだよう。……ねえ、みて、あおくんがあるいたー」
■■ちゃん、待って。
「ねえ、あるいた」
待ってよう──。
◇
「はっ」
いけない、男子トイレの個室にこもったまま、眠ってしまっていた。
夢を、見ていたような気がする。
あれはたしか、一歳くらいの時の……。
「おーい、きみ? おーいってば」
「え? あれ? えと、きぃ子ちゃん? ってかここ男子トイレじゃ」
あのお姉さん──きぃ子ちゃんがドアによじ登って個室の僕を見下ろしている。
「あれ、じゃないよ。うとうとしてたら花子さんに見つかっちゃうよ?」
──ぞくり。
すさまじい悪寒がして、両手で肩を抱く。
がくがく、と肩が震える。
寒いんじゃない、トイレの空調は適温だ。
……怖いんだ。
こつーん。こつーん。
何者かがトイレの外を歩いている。
その気配が「聞こえる」んだ。
「お、来た来た。じゃあね? 見つからないようにがんばって」
そうとだけ言うと、彼女はなぜかとても嬉しそうに、扉の向こう側に消えた。
きぃ子ちゃんなんてヒトは、初めから居なかったかのように。
「■■ちゃん」
僕は必死で立ち上がって、おぼつかない足取りでよちよちと歩く。
「ほら、がんばって、もうすこしだよ」
「■■ちゃん、まってえ」
何度も手をつきながら。
何度もひざを曲げながら。
ぱしゃり。じー。
「ほらー、がんばったね、はい、あんよをがんばったあおくんだよ」
「■■ちゃん」
「ふふ、これはわたしじゃなくて、あおくんだよう。……ねえ、みて、あおくんがあるいたー」
■■ちゃん、待って。
「ねえ、あるいた」
待ってよう──。
◇
「はっ」
いけない、男子トイレの個室にこもったまま、眠ってしまっていた。
夢を、見ていたような気がする。
あれはたしか、一歳くらいの時の……。
「おーい、きみ? おーいってば」
「え? あれ? えと、きぃ子ちゃん? ってかここ男子トイレじゃ」
あのお姉さん──きぃ子ちゃんがドアによじ登って個室の僕を見下ろしている。
「あれ、じゃないよ。うとうとしてたら花子さんに見つかっちゃうよ?」
──ぞくり。
すさまじい悪寒がして、両手で肩を抱く。
がくがく、と肩が震える。
寒いんじゃない、トイレの空調は適温だ。
……怖いんだ。
こつーん。こつーん。
何者かがトイレの外を歩いている。
その気配が「聞こえる」んだ。
「お、来た来た。じゃあね? 見つからないようにがんばって」
そうとだけ言うと、彼女はなぜかとても嬉しそうに、扉の向こう側に消えた。
きぃ子ちゃんなんてヒトは、初めから居なかったかのように。

