【完結】きぃ子ちゃんのインスタントカメラ

 ふわっ。

 風が吹いたみたいに目が染みて、一瞬目を細める。
 ……その時、初めて「見えた」んだ。

 夕焼けを受けて黄金色(こがねいろ)にきらきら輝く髪。
 亜麻色(あまいろ)にも見える色素の薄い茶色の瞳。
 清楚(せいそ)なグレーのセーラー服。
 首から下げるのは、インスタントカメラ。キャメルの持ち手が可愛い。

 すらりと身長が高くて、ちびの自分とはちがう生き物みたいだった。

 あんまり綺麗(きれい)で。
 あんまり浮世離(うきよばな)れしていて。

 君に、教えてあげる。
 ひとってね。あまりに綺麗なものを見た時、言葉が出なくなるんだよ。

「わたしの顔に、何かついてるかい? ……初めて会うわけじゃ、ないだろうに」

 お姉さんはそう言って笑った。
 そうか、エレベーターに乗るときに会ったんだった。

「わたしはインスタントカメラのきぃ子。よろしくね?」

 そう言うと、きぃ子と名乗るお姉さんは手を差し出してきた。
 僕は、その手を、恐る恐る握り返した。

 ──とても柔らかくて、とてもひんやりとして、とても冷たかった。

「ねえ、あお君。わたし達とかくれんぼをしよう」

 ……? わたし「達」?
 達って、誰のことを言っているのだろう。
 そもそも、なんで僕の名前を知っているのだろう。

「ねえ、知ってるかい? この病院、出るらしいんだよ」

 お姉さんは、とっておきの秘密を打ち明けるいたずらっ子のような顔で、僕に耳打ちする。

「トイレの花子さん、がね」