君には、大切なお友達はいるかい?
 君には、忘れられない思い出はあるかい?

 お友達がいない?
 ひとりぼっち?
 いじめられてる?

 ……そう、
 わかるよ。
 わかる。
 寂しいのはつらいもんね。

 そんな君に聞かせたいお話があるんだ。
 僕の話を、ぜひ聞いてみてほしい。

 僕と、不思議なお姉さんと、お化けたちとの──。
 不思議なひと夏の、記憶を。



 二年と五十一日目。令和六年七月九日。火曜日。

 ミーンミンミンミン──……。

 夏の夕暮れ、セミの大合唱が聞こえる田舎道(いなかみち)
 落陽(らくよう)に照らされた山の稜線(りょうせん)は、燃えているみたいに橙色(だいだいいろ)の縁取りをつくる。
 山間(やまあい)を縫うアスファルトの道路は昼間の熱を含んでいて、とても熱い。
 でも、外は暑くて暑くて仕方ないのに、なぜだか、とてもうすら寒い。

 ……(ひと)りだから。
 いつもの学校の帰り道を、僕は独りで、歩く。

 センターパートの黒髪は、夕焼けの光に照らされると紺青色(こんじょういろ)に見える。
 深い青色に見える瞳は垂れ気味で、五年生だけどいつも年下に見られる。
 ブルーのTシャツにベージュのハーフパンツがトレードマーク。
 ほっぺたには、絆創膏(ばんそうこう)

『やめなさい、月森君、やめなさい! ──どうして、どうしていつもけんかばかりするの』

 担任のけいこ先生は、そう言ってはいつも深いため息を()く。

 しるもんか。
 そう言って、帰りの会をすっぽかしてクラスを飛び出してきたところだ。