婚約破棄される令嬢の心は、断罪された王子様の手の中。

 あの男の子は誰だと調べても、王太子である自分にも届かない機密情報だったから、より一層不安にさせてしまっていたに違いない。

「これも言って置くが、ご令嬢と共に居たのは、君が見て居る前だけだ。けど、ミレイユ。君は何も言わなかった。俺のことが好きだとしたなら、そんなことは止めてくれと、言ってくれて良かったのに」

「……ジェレミア。ごめんなさい。すごく……傷つけていたのね。ごめんなさい」

 私にはそんなつもりはなかった。彼がそう望むのなら、結婚前の火遊びくらい大目に見ようと、そういう気持ちでいた。

 だって、婚約しているのだから、私と結婚することは間違いないもの。

 けど、ジェレミアはそんな私の態度にも傷ついていたのだ。嫉妬してくれないことで、私の気持ちが自分にないと思ってしまっても仕方ない。

「俺は君が好きなんだ。どうして、何度も……嘘をついて……どうして、これまでに何も言ってくれなかったんだ。嘘をついても、浮気を咎めてくれたら、それで安心出来たのに……君は俺が何をしても、何も言わない。俺だけが、君のことを好きなんだと、ずっとそう思って居た」