「……イチ」
「なに?」
「おまえ、年末年始どうしてる?」
「はあ?」
「年末年始、休みか?」
「いや、販売業だから、年の瀬までがっつり働いて、代わりに年始に休みだけど……」
「じゃあ年始はひとり寂しく、餅食ってごろごろする?」
「はいはい、どうせひとりで寂しくお餅食ってごろごろしますよ」
「孤独な二十七歳」
「うるさい、実家には帰るよ」
「でも孤独な二十七歳」
「ゆん、しつこい」
「なら遊びに行くか。年末年始そっち行くから」
「こっち来るの? 仕事?」
「仕事っていうか」
「いいよー、遊ぼうよ。でも年始に行く場所なんて限られちゃうよ。こっちは都会と違って遊び場もお店も少ないんだから」
へらへらしながら頷いたのに、ゆんはまた唖然としてしまって、あれ、変なこと言ったかなと不安になった。案の定ゆんは、これでもかというくらい深い深いため息をついて、黒のネクタイを緩める。
「おまえさあ、俺がなんで花織にあんなこと言ったか気付いてないの?」
「わたしはやめとけって? でも本当のことじゃない。わたしみたいな女とじゃ、花織が大変なだけ」
「それもあるけど、そうじゃねえだろ」
「んん?」
「もういいよおまえ。行くぞ」
歩き出したゆんの背中を見つめながら、その言葉の意味を考えた。
自分の良いように解釈するのは簡単だ。ゆんも同じ気持ちでいてくれるなんて。そんな都合の良い話……。
「ゆん」
「なんだよ、早く来い」
数メートル先で立ち止まり振り返ったゆんは、それはもうとてつもなく人相が悪く、心底面倒臭そうに、それでもこちらに真っ直ぐ右手を差し出す。その手を掴むために一歩二歩と足を進める。
握ったその手は、やっぱり汗でびしょ濡れだったけれど、その温かさこそが、生きている証だ。
透き通っていた生に、死に、鮮やかな色がついて、止まっていた時間が、ようやく動き出したような気がした。
そしてわたしは。
「優輔くん」
初めて彼の名を呼んだ。
(了)



