すきとおるし


 もうここ二年、頭の中がぐちゃぐちゃだった。

 足の踏み場すらないごみ屋敷のど真ん中で、たったひとつの、小さな小さな宝物を探し出そうとしている。
 でもそこら中に物が溢れているから、どこから手を付けていいのか分からない。どうしてこんなことになってしまったのか、それすらも分からない。


 ゆんの腕の中で一頻り無様に泣いたら、自分でも驚くほど身体が軽くなった。そのお陰で、ようやく感情が戻ってきた。ゆんの身体に、呼吸に、体温に触れ、ようやくこれが現実だと、確実に理解できた。

 わたしたちは生きている。花織は死んだ。


「花織がいないと、寂しい……」

 信じられないくらいの鼻声で、呟くように言う。

「花織と、もっと一緒にいたかった」

「俺もだよ」

「告白の返事をしなかったこと、後悔してる」

「うん」

「泣きたいくらい、悲しい」

「もう泣いてるだろ」

 言いながらゆんは、わたしの背中をたたく。さっきわたしがやったのと同じようにぽんぽんと。あやすように。なだめるように。

「おまえの背中、びしょ濡れだぞ」

「うるさい、ノンデリカシー男。あんたの胸も同じだよ」

「ぶつかってきたのはおまえ」

「抱き締めたのはあんた」

「あやしてやってんだ、感謝しろ」

「頼んでないし、多分シャツにファンデーションついた」

「勘弁してくれ……」

「ふふ」

「はっ、馬鹿だなあ」

「お互いにね」

 ゆんと笑い合ったのは、二年ぶりだった。
 ようやくあの言葉を口にする気になって、汗だくの身体を離す。そして墓石に向き直って、息を吸い込んだ。


「ごめんね花織。好きな相手がいる。花織とは付き合えない」

 二年越しの返事だった。

 結局はわたしの自己満足だ。花織が聞いているわけでもない。もし答えがイエスだったとしても、付き合えるわけでもない。ただ後悔を消し去るためだけの、わたしの自己満足。

 それでも気分はここ数年で一番すっきりしていた。


 またやけに冷たい風が吹いたけれど、墓地にいる間、もうその風が吹くことはなかった。