すきとおるし



「不謹慎なことを言うとね、ゆん。花織が死んでも何も感じないの。二年前からずっとそう。友だちが死んだっていうのに涙も出ない」

「そりゃあ、じいさんと友だちじゃ違うだろうよ」

 ゆんはそう言いながら、わたしの頭にぽんと手を置いた。

「でも人が死んだことに、かわりはない」

「……まさかおまえ、それをずっと気にして……」

 視線を反らすと、次に聞こえてきたのはため息だった。

「仕方ないことだろ。事故だった。飛び出してきた猫を避けようとしたなんて、優しい花織らしいじゃねぇか」

「仕方ないって、最初から思えた?」

 聞くとゆんはわたしの頭に置いた手を退け、少し考えてから「いや」と呟く。

「正直意味が分からなかった。ついこの間まで普通に喋ってたやつが死んだなんて。今まで家族も親戚も友だちも、俺の周りで死んだやつは一人もいなかった」

「でも受け入れた?」

「実際遺影を見て墓参りして、花織が合流しないチャットルームの画面を見たらな」

「そう……」

「おまえはまだ、受け入れていないんだな」

 この質問に、わたしは答えられなかった。花織は死んだと、頭では理解している。でも、その実感はない。だから返答は、イエスでありノーでもある。

 恐らくその原因は、わたしたちがインターネット上で出会い、そこでの関わりしかなかったからだ。本名も顔も知らない。ハンドルネームで呼び合い、それがわたしたちの全てだったから「花織」と「次郎」が一致しない。「ゆん」と「優輔」もそうだ。それが大きな違和感を生む。

 どれだけ毎日話して笑い合っていても、現実の姿を知らなければ、その繋がりは果てしなく薄いのだ。