新月の天使

その言葉たちに、弟は上機嫌になった。



『けどさ……顔は兄のほうがかっこいいよね』


『あ〜〜わかるぅ〜〜!弟もかっこいいけど兄のほうが別次元だよねっ』




その瞬間。


『っ………、』



ガンッと思いっきり足を踏まれた。


そのままガツガツと彼女達の横を通り過ぎた。


廊下が狭くて、ぶつかるスレスレを弟が通ったから女子たちもすぐに気づいて端に寄る。



『えっ……、ヤバ。聞かれてた?』


『嘘っ……!私同じクラスなのに!』


『あんな怒ってるとこ初めて見た……』




俺はそんな彼女たちを目尻に、弟を追った。


行き先はなんと家。


まだ授業が残っているのに……。


よほど、さっきの女子たちの会話が嫌だったのか……。


俺は弟の後を必死に追う。


着いた先は、中庭だった。



弟は、木で木陰になっている場所に足を止めると、壁を強い力で殴った。



『くそっ………!!!なんでっ……なんでいつもお前なんだよ!!』


『ど、どうしたんだよ。"多色(たいろ)"………』




"多色"。それが、弟の名前だった。


十色と多色。


名前がそっくりな俺たちは、全てが真逆。


性格も、好みも、何もかも。


俺が多色の肩掴んだとき。








『うるせぇんだよっ!!!!!』







頬に、痛みが走った。


殴られたのだ、弟に。


だけど、初めて親に感謝したかもしれない。


御曹司という理由で、昔から誘拐まがいなことをされていた俺。