大将が私の名前を出すと、食い気味に長谷 律の声が重なった。
「茜音ちゃん?行くから、何とか引き留めといて」
「はいよー」
疲れた声を出していたのに弾んだ声に変わり、電話の向こうが騒がしくなった。
「すみません!急用ができましたので、お先に失礼します!」
その声が聞こえると通話は切れた。
「はい、もう後戻りはできんな」
「そうですね。心の準備が…」
「いつも通りの茜音ちゃんで良いのよ。俺はつまみ作ってくるから、笑顔で出迎えたって」
サラリーマンが座っていた席のお皿を片付けて、奥の厨房に消えた大将。
いつも通りが分からなくなってしまった。



