「いらっしゃい。お、茜音ちゃんやんか」
「お久しぶりです」
「また来てくれて嬉しいわ。奥空いてるから、入って」
私が長谷 律に会いに久遠に来たことが分かったのか、まだ空いているカウンター席ではなく、奥の個室に案内してくれたことに、大将の気遣いを感じた。
もしかしたら会えるかも。
大きい期待を膨らませて個室に続く木の扉を開けると、壁と椅子の間からぼんわりと滲む間接照明だけがあった。
「最近、律来てないんよ。多分忙しいんやろな…」
お手拭きと水を持ってきてくれた大将が、後ろから私に声をかける。
じゃあ何で個室に通してくれたんだろう。
来ていないなら、カウンターに座って大将が料理する姿を見たかった。



