私の右隣に長谷 律が座るとすぐに、奥から大将が出てきて、水とおしぼりが置かれた。
おしぼりを手に取ると、人肌に温められていて心地良い。
丸められていたのを解いて手を拭くと、頭が冷静さを取り戻して、電車を降りてからの出来事を落ち着いて理解することができた。
長谷 律にバレないように細く息を吐いて、水を一口飲む。
氷が入っていたからキンキンに冷えていて、それが喉から食道を通った時、しゃきんと背筋が伸びた。
「落ち着いた?」
「え?あ、はい…」
「ごめんね。何も言わずにここまで来ちゃって。さっきテーマパークで助けてくれたし、電車でも話しかけてくれたでしょ。芸能人だとさ、こういう当たり前のことが経験できないんだよね。だから嬉しくて」
「…ん?ちょっと話が見えないんですけど」
「だから!芸能人だからとか考えてくれない茜音ちゃんが、有難いってこと!興味本位で群がられるの、苦手だから。そういう目で見てくれなかったのが嬉しくて、お礼したくなった」



