雑居ビルの中に足を進めると、一つだけお店が入っていて、〝久遠(くどう)〟と書かれた暖簾がかかっている。
白地に青い文字で書かれていて、その暖簾をくぐってガラガラと木の引き戸が開くと、大将らしき腕っ節の強い男性がカウンターの中で作業していた。
「よっ」
「らっしゃい。おー、律。…え、律が女連れて来た」
「言い方な。この子、俺のこと助けてくれたから、お礼したいの。何か作ってやってよ」
「はいはい。こいつ人使い荒いでしょ?けど何でかお願いされると、聞いちゃうんよねー…。さ、お嬢ちゃんのために美味しいもん作っちゃう!」
会話の流れが早すぎてついて行けないけど、この大将と長谷 律は顔馴染みらしい。
何回か言葉を交わして、〝任しとき!〟と言って奥に引っ込んでしまった。
奥に厨房でもあるのかな?



