名前のない香水


駅前の時計台の下は、
思ったより人が多かった。

浴衣の人、
私服の人、
提灯の光。

夢と彼氏は、
少し離れたところで立ち止まる。

「じゃ、私たちこの辺で」
「終わったら連絡して」

それだけ言って、
自然に距離を取ってくれた。

時計台の影に、
一人分の空白が残る。

一花は、そこに立った。

下駄が少し心もとなくて、
体の重心を、そっと整える。

そのとき。

人の流れの向こうで、
一瞬、視線が止まった。

桐谷くんだった。

こちらに気づいて
歩いてくる。

……でも、途中で、わずかに足が止まる。

理由は、はっきりしていた。

淡い白地に、
水色と薄紫の朝顔。
夜の光を受けて、
静かに浮かび上がる浴衣姿。