名前のない香水


確かめるみたいな声。

私は一瞬だけ迷ってから、
スマホを手に取った。

――行こうと思います。
――よかったら、一緒に行きたいです。

その言葉は、
少し前に、もう送っている。

あれから、
メールのやりとりはしていない。

それでも――
今回は、違った。

入院しなくていいこと。
体調が、思ったより安定していること。
花火大会に行けるかもしれない、という事実。

全部が重なって、
胸の奥が、静かに浮き上がる。

考えるより先に、指が動いていた。

――当日は、浴衣を着て行きます。

それだけ。

送ったのは、それだけだった。

それから、
やりとりは続かなかった。
スタンプも、雑談もない。

それでも、
画面を伏せたときの胸の静けさが、
返事の代わりみたいだった。