「こんな横取り女いるわけないじゃん」と笑っていた俺、転生先で横取り女の被害に遭ったけど、婚約者が最高すぎた。


「結城坂様、あの……例の霊符、わたくしにも譲ってはいただけないでしょうか……。お礼はいたしますので……」
「ええ、いいですよ。一枚でよろしいですか?」
「あ……ありがとうございます!」

 佐山さんに『自動防御』の霊符をあげてから、一週間……俺のところへ代わる代わる女生徒がやってくるようになった。
 そろそろ二桁に達する数だぞ、マジかよ。
 事前に作っておいた霊符が底をついて、空の桐箱を見下ろしてからがっかりした気持ちになる。
 この世界の――この国の央族の男ってこんなに元鞘に戻れると思って、元カノに寄りを戻そうと言ってくるのか。
 自分の浮気が原因なのにも関わらず、どうしてイケると思うのだろう。
 幸いクズポンタンは最近すっかり姿を見せない。
 多分、家の方から俺の婚約者が誰なのかを聞いたんだろう。
 身の程を弁えてくれたようでなによりだぜ。

「失礼。結城坂様、よろしいかしら?」
「ヒョェ……!? あ、な、なんでしょうか……? 六条ノ護(ろくじょうのご)様」

 話しかけてきたのは六条ノ護(ろくじょうのご)小百合(さゆり)さん。
 霊符や霊術を危険に思う『近未来幸福の会』の思想にかなり汚染されている人だったように思うのだが……俺が霊符を配っているからいちゃもんつけにきたんか? おん? やるか?

「あなた、来週の四季結界補修に参加されるのですわよね?」
「え? ああ、はい」

 珍しく一人の時に、一人で話しかけてきたな、と思ったらその話。
 ああ、でもそうか。
 一応小百合さんも守護十戒(しゅごじゅっかい)の一角のお家柄。

六条ノ護(ろくじょうのご)様も参加なさるのですか?」
「え、ええ、まあ……。そ、そう。本当に参加なさるのね」
「はい。私は初めてなので、六条ノ護(ろくじょうのご)様に色々教えていただけると嬉しいです。結界の補修はどのような霊術で、どのように行うのですか?」

 そういえば事前に詳しい話とかなんにも聞いてないんだよなー。
 結界に関する霊術は授業で基礎の基礎をやる。
 特に女子は、将来嫁いだ家によっては四季結界補修に参加するから。
 守護十戒(しゅごじゅっかい)の家はほぼ強制参加のはず。
 基礎の結界霊術で補修するのか?
 まさかぶっつけ本番ってわけではないよな?

「霊術の構築は専門家――たとえば一条ノ護(いちじょうのご)家のご当主様がなさるのよ。わたくしたちは一ヶ所に集められ、霊力をそれぞれの補修箇所に送る役目なのです。だから、詳しい霊術の構築方法など知らずともよいのです」
「え! そ、そうなんですか? 私、てっきり……」

 霊術が使えるもんだとばかり……。
 そ、そうか、当主たちがそれぞれの補修箇所に霊力を送れるように霊術を構築して、その他大勢が霊力を送ってその箇所が自動補修されるようにした方が労力も少なくて済むか。
 そっかあ……残念。

「ですが……あなたが一条ノ護(いちじょうのご)家に嫁がれるのでしたら――その知識はむしろ足りない、でしょうね」

 お。
 思わず小百合さんを上目で見る。
 どうやらこの人は俺が滉雅さんに嫁ぐ話を耳にしたってことなのかな?

「ですよね。まだまだたくさん勉強することがあるので、やりがいがございます」
「そうですか。では、婚約の話は本当なのですね」
「詳しくは正式な公表の時までお話はできないのです。申し訳ございません」
「いいえ。……ですが、それなら気をつけられた方がよろしくてよ」
「はい?」

 なんとなく、急激に小百合さんの態度が柔らかくなった気がした。
 それも違和感だったけれど、少し困ったような、忌々しそうな表情になって腕を組む小百合さんが衝撃的なことを教えてくれる。

「あなたと新しい婚約者のことを言いふらしている方がいましたの。皆さん弁えて(・・・)おりますから、あなたに、直接確認しにくる方はいらっしゃらないようですけれど……そういう配慮のできない、品のない方が、ね」
「それって――」

 この人がこんな言い方をするのって、二人しか思い浮かばない。
 クズポンタンか、股ゆる女。
 でも多分クズポンタンは違う。
 あいつは多分、実家にガッツリ釘刺されてる。
 ってことは、あの股ゆる女か。

「でも、気をつけると言われましても、私はあまりなにに気をつけるべきなのかまだわからなくて……」
「霊力を買われて見初められたのですものね。まあ、すでに正式に婚約が交わされておられるのでしたら特に気にすることもないでしょう。婚約者がいるという点は、隠してはおられないのでしょう?」
「ええ。両家の当主様からも聞かれたらお相手のことは伏せて、婚約については話して構わないと言われております」

 だから別に、言いふらされてもなぁって感じ。
 なんかダメなん?

「学校内ならお相手がお相手ですから、さして問題はありませんの。ですが、社交界の方ではそうはいきませんわ」
「え……ええと……それは……」
「元婚約者候補だった方々が、あの品のない方の流した噂を耳にしてあなたのよくない噂を流し始めている様子」
「えっ」

 えっていうか、もうゲッて感じ。
 マジかよ、これが噂の女の喧嘩ってやつか!
 そ、想像以上に陰湿〜〜〜!

「あなたの新しい婚約者様は元々ものすごくたくさんのご令嬢が婚約者候補に名を連ねていましたのよ。でも、どの方も彼の方のお母様の反対にあい、泣く泣くお話が流れた方が数知れず、という事情もおありでして……」
「その方々はすでにご結婚されているのでは……?」

 滉雅さんは今年で二十七歳って聞いたぞ。
 俺よりちょうど一回り年上。
 だから本人も結婚はもう厳しいだろうな、と諦めていた、とか言ってた。
 そもそも女の人が苦手なのもあったらしいけど……。

「ええ、だからやっかみを買いやすいのですわ」
「そ…………そうなのですね……」

 女の世界めんどうくせえええ!?
 えええええ!? 結婚したあとまで、引きずるもんなのぉ!?
 嘘だろ、怖すぎない!?

「四季結界補修の日は、多いと数百ヶ所の修繕地点を数ヶ所の霊力供給地点で補修します。霊力供給地点は内地に一つ、外地に二つ、三つの時もあるので当日はわたくしか、ご当主様のお側に控えておられた方がよろしくてよ。どなたが手を回したのかはわかりませんが、先生方が卒業後に嫁入りするのだからと、学生であるわたくしたちを四季結界補修に派遣しようという話が持ち上がっているそうですから」