今思えば、僕は彼女のことを何も知らない。


名前とクラスくらいだ。



だからこの機会に。


桜田仁奈という人物を、彼女が見ている世界を、僕も覗いてみたい。








───先天性赤緑色覚異常








この図書館で、知花とたくさん調べて、たくさん読んだ。


恐らく、彼女はまだ帰っていない。


この図書館から出るには、今僕がいるところを通らなければならない。


だけど、彼女たちが通った記憶はない。



彼女を探そうとキョロキョロ見渡したとき。





「浩希くん、知花ちゃん、私たちもう帰るね」


手に山ほどの本を持って彼女が言った。


小説だろうか。


「え、ちょっと」



彼女に、桜田仁奈に、あのこと(・・・・)を聞こうと思った。



「また月曜日、学校でね」


彼女は静かにそう言うと、踵を返して出ていってしまった。



「ねえねえ、あの人、おともだち?」