桜田仁奈が発した言葉に、違和感を覚えた。


「……茶色?」


あのくまのぬいぐるみは、正真正銘、緑色だ。


内村がもらったのも、僕がもらったのも、どちらも緑色だ。


しかし今、彼女は茶色いくま(・・・・・)と言った。



「あっ……」


彼女はなぜか『しまった』とでもいうような顔をしている。


意味が理解できなかったから、平山さんのほうをちらっと見たけど、相変わらず無表情のままだった。



「あ、ごめん!ちょっと用事思い出したから行くね!」


「えっ、ちょ……」


彼女は振り返りもせずに走っていった。


平山さんならなにか知っているかと思ったが。


「ごめん、私も行く」


そう言って、平山さんは踵を返して行った。



「………」






僕は図書室を歩き回りながら考えた。


やっぱり、何度考えても彼女は、緑色のくまを茶色いくまと言っていた。


いったいどういうことなんだろう。