夏。
 ゆうなは遅刻した。
 「わあ、遅刻だあああああああああ」
 ゆうなは道を走っていた。
 ゆうなは耳の上ツインテール、ラビットスタイル。靴下は黒のハイカット丈。ローファーをはいている。白い半そでセーラー服姿、スカート。茶色の合皮のスクールバッグを持っている。そこには「ゆうな」と落書きしてあった。
 その日は薄曇りだった。蒸し暑かった。ゆうなは汗をかいている。青春の香りがにおった。ゆうなの肌が美しく光っていた。
 ゆうなは急いで、学校の校門をくぐった。
 ゆうなは玄関で上靴に履き替え、教室へ行った。もうホームルームははじまっている。
 「わあ、どうしよう、田沼のやつに嫌味いわれるよお」
 ゆうなは気分が沈んだ。

 1年2組と書かれた札。
 がらがら、と教室の後ろの戸を開けた。
 みんなの視線。ゆうなははっとなった。
 「ゆうな」
 と、田沼。田沼がいつものように切れ長の目で陰険にねめつけている。
 「あのう、遅れてすいません」
 と、ゆうな。
 「申し訳ありませんだろう」
 と、田沼がいった。
 「あ、はい。申し訳ありません」
 「とっとと席につけ」
 と、田沼がつっけんどんにいった。
 「あ、はい」
 ゆうなは、席についた。田沼がにらみつけてくる。えええええええ、やっぱヤンキーだよあいつう、とゆうな。
 隣には橋本ここなが。ここなはポニーテールだった。ピンクの大きいリボンをつけている。半袖セーラー服姿。スカート。いい香りがした。
 「田沼いやだねえ」
 と、ここながこっそりいった。
 「そうだねえ」
 と、ゆうな。
 「ん、ゆうな、ここな、なんか言ったか?」
 と、田沼。
 「あ、いやなんにも」
 と、ゆうな。
 「そうか」
 と、田沼。
 (わあああああああ。陰険な野郎だ)とゆうなは思った。