その日、予想外の事が起こった。
 いや~~今この場にいる事自体が俺にとっての想定外の事だからな。今更なにが起きても驚かない自信はあった。それでも意外だ。


「砦を放棄するとはな。流石に思わなかったぜ」

 目の前に広がる光景を目にしながら、思わず声に出してしまった。それくらい意外だったんだ。
 ここは王都から馬で三時間程離れた場所にある砦の一つだ。
 近いうちに正規軍と戦う事になるだろうと思ってはいたが……。

「これが世にいう不戦勝って奴か?」
 
 まあ、俺達は負けてはいないけどさ。っていうか、ぶっちゃけ勝ってる。

「まさか敵が戦うでもなく降伏するでもない。逃げるとはな」

「いや、そうとも限らんぞ」

「?…………どういうことだ」

「多分だが、王都に兵を集中させているんだろうよ。だからこの砦は放棄した。戦略的撤退ってところかな?」
 
 なるほど。そういう考え方もあるのか。
 確かにそれなら筋は通る。ただ単に戦いたくなかっただけかもしれんが。それにしても何というか釈然としなかった。

「その予想は正しいだろうな。ある意味では正しい判断だ」

 上官が苦笑した。

「どういうことですか?」

「戦力を王都に集中させるということは最終決戦に備えていると見ていい。ただな、個人的にはこの砦で戦って勝利を確定させておきたかったんだがな」

「何故ですか?」

「この砦は王都に近い。そうなれば王家との話し合いの場を持つ事もできるたはずだ。流石にこの場所で負ければ彼らも考えを改めたかもしれないが……上手くいかないものだ。まぁ、王家にとっては大公家のクーデターでかなり疑心暗鬼になってるって話だからな。仕方ないか」

 ああ~、あのクーデターのせいか。
 確かに。身内に後ろから刺されたようなものだ。あれは王家にとっても寝耳に水だよな。

「公爵家の方々は王家に降伏を促すだろうからそれを受け入れてくれるのが一番なんだが……」

「無駄な血は流したくありません」

「それもあるが、正規軍が市民を巻き沿えにするのではないかと思ってな。人間の楯など使われたら最悪だ」

 うわぁ~ありそうで怖い。
 そうなれば市街戦になるし。それは避けたい。勝っても王都民の恨みを買うだけだし。そんな状態でどうやって王家と交渉すれば良いんだよって話になるもんな。そもそも王宮までどうやって攻め込めむんだ?攻め込めるものなのか?噂じゃ、魔術師達が結界張りまくってるって話だし、まだ見た事のない秘密兵器があるんじゃねーのかって話もあるしな。

 俺達の不安は的中する。

 王家は徹底抗戦を通達してきたのだ。