クーデターの失敗と共に内通者の安否情報が入った。どうやら無事に目的地に辿りつけたようだ。

 
「そうか、大公家は全滅か」

「はい」

「内通者は?」

「無事に隣国への亡命を果たしました」

「そうか」

「旦那様、宜しかったのですか?」

「ん?」

「例の伯爵一家です」

「始末しなかったことか?」

「はい」

「情報と引き換えに家族の安全を保障する契約を交わしている。それも魔法契約をな。致し方ない」

「ですが……」

「お前の心配も分かる。彼らは大公家の人間だからな。だが、我らの敵は大公家ではない王家だ。討つべき敵が健在である以上はその他のことは後回しで構わん。それに、彼らは二度とこの国に戻ってはこれないようにはしてある。もっとも彼らにしてもそれが分かっているはずだ。二度とこの大地を踏むことは無いだろう。そのために彼らの情報を流したのだからな」

「はい。数日後には国中に広がる次第であります」

「ならば問題ない。彼らも理解している筈だ。国に戻れば命はないとな。大公家は全滅しているとはいえ、関わりのあった者達は生きている。王家にとっても貴族達にとっても彼らは裏切り者だ」

 殺さなくても良かったのかという顔を隠さない部下に苦笑する。
 だがそれも致し方あるまい。今回のようなクーデターを企てた輩の一族だ。それも亡き大公の娘婿の一人。死んでくれたほうが後々の面倒がないと考えるのが道理だからな。

「いまだ内乱は続いている。クーデターを制圧できた王家ではあるが無傷ではない。アイゼンシュタイン侯爵は随分頑張ってくれたようだ。おかげで徴兵された兵士の数が予想の半分以下に抑えられたからな」

「はい。その点に関しては感謝してもしたりません。しかしそれでは……」

 言いたいことが分かってる。このまま手をこまねいている訳にはいかない。数が減ったからといって連合軍と正規軍の数の差は依然としてある。それにまだ王都近郊での攻防戦が続くだろう。いずれ消耗戦にもつれ込む可能性が高い。長期戦はこちら側の不利だ。

「そうだ。そろそろ動く必要がある」

「どのように動かれますか?」

「王都に忍び込ませていた諜報部隊からの報告があった」

 これが上手くいけば戦局を一変できるかもしれない。
 まぁ、上手くいけばの話だが。