何故、こんなことになったのだろう?
 いくら考えても分からない。

 それでも目の前に広がる公爵家の旗と軍勢を前にして何時までも現実逃避をしていられないのも事実だった。



「喜びなさい、ミゲル。地方の貴族は私達の味方です!まだまだ集まってくるわ!」

 軍服姿のブリジットは実に凛々しい。

 本当に……どうしてこうなった!!?


 この事態は三日前に起こった。
 義母とブリジットとでお茶の時間を楽しんでいる時だ。


『国王陛下が崩御されました』

 急な知らせだった。
 
『エンリケ第一王子殿下が新国王に御立になられました。そして――――ぺーゼロット公爵家が反逆罪として討伐の対象となりました!』

 僕にとってそれは晴天の青さを誇る空が急に曇って雨雲に覆われて雷鳴と共に稲妻が光るような衝撃的事実だった。
 国王が死んだのは別にいい。
 なんにしても時間の問題だったからだ。
 第一王子が即位したのだって別にどうでもいい。国王唯一の王子だ。順当にいけば王になるだろう。王太子になってなくとも非常事態ということで有耶無耶にできる。
 でも、何故、僕達公爵家が反逆罪で粛清対象?!
 意味が分からない!!!


 更にどこから聞きつけたのか、地方貴族達が一斉に公爵家側に付き始めたのだ!
 しかもその筆頭が辺境伯爵家。反王家と言っても過言ではない辺境伯爵家。国王一家との因縁深い一族でもある。

 国王が倒れ、エンリケ王子が即位した瞬間から既に内戦状態だったのかもしれない。とにかく、こうして我が公爵家は謀反を起こしたとされてしまった。

 誰だよ!
 それ言った奴!!
 責任とれ!!!


 僕は怒り心頭だが冷静なブリジットを宥めつつ、なんとか逃げ出せないか考えた。

『逃げる?』

 彼女は笑った。それは美しい。美し過ぎる微笑みだったが瞳はまるで氷柱のように鋭かった。


『どこへ?』

『どこだろ?』

『逃げるなら戦って一緒に生き残りましょう。貴方はぺーゼロット公爵家の当主です』

 ブリジットの目には闘志の炎が激しく揺らめいていた。
 やる気満々だった。
 因みに、やる気満々だったのはブリジットだけじゃなかった。
 公爵領民も俄然、やる気に満ちていた。

 それは伝染するかのように地方貴族にも伝わり皆の心を奮わせていた。特に辺境伯爵家は「勝利は我らに」と言わんばかりに気合が入っていた。
 こうなってしまっては公爵家に出来ることは正規軍と戦って勝つことしかない! 負ければ間違いなく死だ。生き残るには勝つしかなかった。



 こうして、公爵家を旗印に連合軍が結成されたのである。