もう長くはないだろう。
 その事は随分前から分かっていた。
 覚悟はできている。

 このところ家臣たちは、世継ぎを誰にするのかとしきりに聞いてくる。彼らの気持ちも分かる。このまま決まらなければ確実に王位争いが始まる。それを阻止するためにも早急に次の王を決めなければならなかった。

 

 ――――そうと分かっているのに。

 
 
 私の魔力が戻る日はこない。
 何故、魔力が枯渇してしまったのかも定かではないのだ。

 医者や魔術師たちも首を傾げる現象だ。
 前例がないとまで言われた。
 

 なにかの呪いなのか、それとも奇病か。
 それさえも分からない。
 
 医者は奇病と言い。
 魔術師は呪いと言う。

 偶然かは分からないが、魔力が枯渇した頃から毎夜夢を見る。

 夢の中で私は誰かに謝っている。
 何に対してなのか分からない。
 誰に対してなのかも分からない。
 それでも天に向かって謝り続けている自分自身はどうしようもなく愚かに見えた。

 
 守るものを間違えた――――
 

 夢の中の自分が何を間違えたのかは分からない。
 ただ、間違えたが故に息子は死んだ。それだけは分かった。なにしろ、夢の中で謝り続ける自分の腕にはボロボロになった息子がいた。冷たい体はもう生きていない。

『……すまない……すまない――――私が王にと望んだばかりに……』


 夢だ。
 ただの夢だとは到底思えない生々しさ。

 私は一人息子を守れなかった。
 いや、それどころか悲惨な人生を送らせてしまったことだけは理解できた。

 正夢なのかもしれない。

 そう思うのに時間はかからなかった。
 夢のように息子を無惨に死なせてはならない。
 
 今度こそ守らなければ――――

 そのためには、あの子を、エンリケを次の王に指名してはいけないのだ。

 大公家からの圧力もあり、大公女との婚約を結んだ時もエンリケを王太子にしなかった。
 他の王族の血脈を探しているのも全てはエンリケを生かすためだ。


 なのに、何故だろう?

 私は何か重要な事を忘れている気がするのだ。
 それに警鐘を鳴らしている夢の中の自分もいるのだが……。
 ――それがなんだったかさえ思い出せない。
 ただ思い出さなければいけない気がしてならない。


 今日もまた夢を見る。
 息子の最期を見届けるだけの哀れな己の姿を。