「今、王家に忠誠を誓っているのはカストロ侯爵くらいです」

「近衛騎士団団長は若い頃から国王に心酔していましたからね。無理もありません」

「同じように入れ込んでいた宰相はあのザマですが」

「ホアンは国王の力に心酔し、騎士団団長は国王自身に心酔していたというところでしょう。力を失った王をホアンは見限ったとしてもそれは仕方ありません。少々意外な気もしますが」


 義母と顧問弁護士の会話に、僕は納得した。
 最後まで王家を守ろうとした近衛騎士団団長。それは今世でも変わらない。彼の言動は元義父と違って一貫していた。



「宰相が国王を裏切った背景ですが、どうやらもう一つの秘密があるようです」

「秘密?」

「はい」

「魔力の枯渇以外にかしら?」

「はい。……どうやら国王は()()()()()()()されたようです」

「そう……レガリアに」

「はい」

「ホアンの国王離れの本当の理由はそれかしら?」

「恐らくは。宰相は魔力の枯渇と共にそれを知ったようです。『レガリアに拒否された国王をそのままにしておくことはできない』と心の中で叫んでいましたから間違いないかと」

 僕と義姉は何も言わずにその会話を聞いているだけだったけど、何だか凄く嫌な感じだった。
 そもそもレガリアとは何だろう?
 拒否されるとは、一体どういう意味なんだろうか?

 疑問ばかり浮かんでくる。




「義母上、レガリアとは何ですか?拒否とは一体……」

 僕の問い掛けに対して義母は目を閉じ、そして小さくため息をつく。
 何か言いたくない事情があるようだけれど、それでも義母は答えてくれるつもりらしい。意を決したように話し始めた。
 
「レガリアというのはね、王家に伝わる秘宝よ。別名『聖女の涙』とも呼ばれているわ」

「聖女の……涙?」

 そんなものが存在していたのか。
 
「王家にレガリアなんてものがあったなんて知りませんでした」
 
「知らなくて当然よ。これは極一部の者しか知らされていないわ。レガリアは王家の血筋を引くものだけが使うことを許された秘術でもあるの。王家とそれに連なる者にしか伝えられていないと言ってもいいかもしれないわ」
 
「どんな代物なんですか?」
 
「知らない方が身の為よ、ミゲル。王家が秘匿する物。それは人にとっては忌むべき存在なのだから」

 どうやら義母はどんな物なのか知っているらしい。
 そして、この言い方。相当厄介なものなのだろう。知らない方が良いというからには複雑な事情があるのかもしれない。


「どちらにしても前代未聞の事態だわ」

「はい。レガリアの存在は国王に近い者しか知り得ない情報ですが、国王の魔力の枯渇は社交界に広まりつつあるようです」

「騒ぎにはなっていないようね」

「はい。一時的なものと思っている人が多いようです。宰相も混乱を避けるためにあえて否定はしていません。実際に魔力が回復する可能性もあり得ますから。ただ、魔力の枯渇が原因で宰相が国王を見限ったという事が高位貴族の間では問題視されています。部下からも宰相に不信感を抱く者が増えているのが現状です」

「ホアンの事だから気付いていないでしょうね」

「はい。気付く気配すらありません」

「人の感情に疎い処があるから仕方がないわね。でも、彼の事だからそこそこ切り抜けるでしょう」

「そうですね。妙に勘が鋭い処がありますから。最悪は避けられるのではないでしょうか」

 義母と顧問弁護士の会話を聞きながら、ふと思った。
 二人とも残念がっていないだろうか?