「――――と言う事です」

「「「………」」」

 公爵家の顧問弁護士の話を聞き終わった僕達三人は沈黙した。
 義姉だけでなく義母まで分かり易く不快げな顔をしている。



「………あの人の身勝手さは今に始まった事じゃないけどね。それでも一応罪悪感はあったんだ。意外。全くないのかと思ったよ。まあ、子供の結婚相手を選ぶ目は持って無いのは前と変わらないから驚かないけどね」

 元義父に対して僕は何も感じない。もう家族でも何でもないからね。

「辛辣ですね、ミゲル様」

「仕方ない。あの人に同情して優しくしたところでソレを利用されないとも限らない」

()()がそうであったようにですか?」

「そうだね。僕と義姉上、公爵家を滅茶苦茶にされないためには、あの人(義父)との縁を切るしかない。まあ、絶縁したところで妙にポジティブなあの人の事だ。僕達をこのままそっとしておくという選択をする可能性は極めて低いだろうね」


 僕の言葉に三人は無言で頷いた。
 そもそもあの人には『前科』がある。
 義姉を利用して裏切っているんだ。
 今回は義姉ではなく僕が標的になっているみたいだけど、義姉にしたような事を僕にしないとは言い切れない。

 部屋にいる三人は僕の秘密を知っている。
 僕がココではない未来の記憶を持っている事を。
 今とは全く違った人生を生きていた事を。

 僕が自分から話した訳じゃない。
 斜め隣に座っている顧問弁護士のせいだ。
 まさか、彼が()()()()()()()()()を持っていたとは思わなかった。
 僕の心の中を読んだ彼は、それを知りまず義母に報告。そしてその話を聞いた義母は、僕と義姉を呼び出しこの話をした。その時に弁護士のスキルを明かしたのだ。そこまでされると僕も隠し通す事はできなかった。僕は自分が見た事のある限りの事を話し、知っている事を教えた。
 彼等はそれを黙って聞き、信じてくれた。
 そして、今回の件も含めて、今後どうするべきなのか話し合った結果、義姉の結婚相手を僕にして、僕達が王都を離れる事になった。
 あの人から距離を取る為に。
 僕達の安全の為に。
 何せ相手はあの元義父だからね。
 それに大公家の動きも気になる。
 彼らが何をしでかすか分かったものじゃない。
 そんな訳で、現在僕達は王都を出て、ぺーゼロット公爵領にいる。移動中の馬車内で話し合いを行ったのだが、やはりあの人は信用できないと意見は一致していた。

 あの人が妻子よりも自分の政治家としての権力と国を優先するのは前からだ。前回はそれに『王家』が含まれていたから余計に酷かった。今はそれが『大公家』になりつつある。まあ、王家の時は国王に心酔していた節があるからそれに比べたらまだマシなのかもしれない。
 


「今のところは、宰相と大公は協力関係にあります。ですが、宰相が公爵家から切り捨てられたと知ればどうなるかは分かりません」

「それは、対等ではなくなると?」

「はい。少なくとも、公爵家は王国における一大勢力です。その影響力は計り知れません。もしそれを失えば派閥内でも混乱をきたす恐れがあります。宰相は気付いていないようですが、大半の貴族は宰相の後ろに公爵家がいると思っているからこそ、宰相についていた者も大勢いるでしょう」

 確かにそれは言えるかも。
 
「それは大公にも言えるでしょう。公爵家あっての宰相。だからこそ協力体制を保てていた筈です。宰相はそれが当然と思っていますが、決して当たり前の事ではありません。恐らくこれから宰相は嫌と言うほど理解するでしょうね。己の愚かさを」

 それは宰相が大公に屈するということだ。
 いや、大公家が宰相派閥を乗っ取るという意味なのかもしれない。 どちらにしても、あの人にとって苦難の道になる事は間違いない。