黙り込みぐっと唇を噛みしめる宰相の姿に哀れみは覚えなかった。
 息子は大公家に差し出せても自分は嫌と言うことか。まったく!どこまで身勝手な男だ!!

 険しい目でこちらを睨みつけてくる宰相。
 凄まれたところで怖くとも何ともない。こちらは彼以上に修羅場を経験している。鼻で嗤いたくなるくらいだ。

 本当に情けない。
 それでも御子息に対する後ろめたさは多少あったのだろう。
 だからこそ、屋敷にも帰らずにいた。縁組の件でも自分では何もせず、何も言わず、ヴァノッツア様から連絡させたのだ。家の事は妻の仕事だと言わんばかりに。

 申し訳ないと思っても思うだけ。
 国のために御子息を犠牲にする事も厭わない。
 自分も心苦しいが、これも国のために耐えてくれと心の中で謝るだけ。
 直接話せば反発されるのは目に見えている。それを分かっているからこそ会えない。会わない。


 どこまでも最低な男だ。
 そして最悪の父親だ。
 いや、父親としての自覚に欠けているのではないか?


 そんな父親失格の男を一瞥すると「話は以上になります」と言い、席を立った。




 宰相閣下、貴方は御存知ないでしょう。
 私を魔力量の少ない下っ端風情と思っているのかもしれませんね。まあ、否定はしません。学生時代の成績も中の中。大して目立たない何処にでもいる存在でしたから。

 きっと私の年齢さえ御存知ないのでしょう。
「興味も無いから知らない」と言われそうですね。

 私の年齢はヴァノッツア様と同じなんですよ?

 教えてもピンとこないでしょうね。
 よくあれで宰相位に就けたものです。
 察しが悪いと言うか、なんというか……。
 
 興味のない事は覚えていないのでしょう。

 

 我が家は代々ぺーゼロット公爵家に仕える『影』。

 私はヴァノッツア様の学生時代の『護衛』でした。
 
 陰ながら守る事が一番。
 あの大公女のようにぞろぞろと『護衛もどき』を従えるのとでは訳が違います。本来の実力をひた隠し、可もなく不可もない存在で居続ける事を学生時代に徹底して行っていました。学生時代の成績では弁護士資格は取れませんよ。

 そんな事すら気付かなかったようです。

 ホアン様、貴方は公爵家の婿としてとっくに落第なさっていたのですよ。

 それさえも御存知なかったようですね。
 残念です。