「話は変わりますが、御実家の侯爵家が代替わりなさった事を御存知ですか?」

「はっ!? 代替わり?」

「はい、宰相閣下にとっては甥御様である、ノルン様が当主になられたそうです」
 
「ノルンだと!あの子はまだ二十歳……いや二十一歳だったか? まだ若すぎるだろう!!それに兄上はまだ若い!!隠居する年齢でもないだろう!!」
 
「新当主は二十三歳です」
 
「……は?」
 
「実の甥の年齢もろくに覚えていないとは。呆れ果てて物申すことも出来ませんね。よほど興味がないと見えます」
 
「うぐっ! そんな事はない!」
 
「どうでしょうねぇ。その分では御自分の御子の年齢さえ忘れていらっしゃるのでは?」
 
「何を言う!子供達は十六歳になったばかりだ!!」
 
「それは重畳。それならばもう御子息が爵位を継がれても問題ない年齢に達していると言う事は理解されていますね」
 
「どういう意味だ?」
 
「おめでとうございます。公爵家の現当主はミゲル様です」
 
「あ、あの子はまだ成人に達していない!!!」
 
「はい。ですからヴァノッツア様が後見人になられました。後見人が承諾すれば準成人のミゲル様は家督を継承できますので」
 
「…………っ」
 
「ああ!いけません。つい話がそれてしまった。宰相閣下の実家のお話をしていたというのに。申し訳ありません。話を続けさせていただきます。今年で二十三歳になられますノルン様ですが、当主になられたことで宰相閣下との縁切りを申し出られています。既に王都の屋敷を引き払い領地へと戻られているようですよ。前侯爵と前々侯爵夫妻は静養のため領地の片隅にある館に引っ越されたとか」
 
「ばかな!!何を勝手なことをしているのだ!!!縁切りだと!!!?」


 一体何が起こっているんだ?
 老齢だが両親は健康そのもの。兄上にしてもだ!!
 静養?
 何の静養だというんだ!!!





「ふざけるな!!!」

「甥御様はふざけているつもりは無いと思いますよ。本気で宰相閣下と縁を切るおつもりでしょう」

「何故そうなる!!」

「貴方のせいです。貴方の仕出かしのせいで侯爵家は公爵家に資産を差し出し続けてきた。宰相閣下は御実家が破産なさっても宜しいと仰られるのか?」

「……っ!!?」

「資産だけの話ではありません。ノルン様は宰相閣下がいずれ甥である自分すら己の駒にしようと目論むかもしれないと危惧していました」

「なに?!」

「貴方が大公家との縁組を望んでいると知ったのでしょう。餌食になる前に縁を切る決意をしたようですね」

「餌食だと!?」

「ええ。大公家との繋がりを得るために自分の子供を人身御供に差し出そうとなさる姿はノルン様にとって目に余るものだったのでしょう」

 人身御供だと!?
 馬鹿なことを!!
 私はそんなつもりで縁組を用意した訳ではない!!

 絶句する私を弁護士は軽蔑の眼差しで見つめてきた。
 何故、そんな目で見られないといけないんだ。
 だいたい婚約話は私から言い出した事では無い。
 向こうから。
 そう、大公家から言い出してきたんだ。

 私とて断りたかった。
 それでも断れない事情があったんだ。
 何故、誰もそれに理解を示してくれない!
 妻もだ!
 大公家からの縁組は承諾できないの一点張り!!

 



 

 
 国王陛下――――

 巨大な魔力量を失った陛下。
 その事を知る者は、皆、私が「魔力が枯渇した国王を見限った」と思っている。違う。そうじゃない。それもあるが、一番の原因は()()ではないのだ。

 私はこの国の宰相として正さなければならない。

 国王陛下は()()()()()()だったのだ。

 間違っているのなら排除して正しく直さなければいけない。
 だが、「歴代最強の魔力」と謳われた陛下のカリスマは伊達ではない。
 この数年間で殆どの実権を奪われた今でも陛下を守り擁護する者はいる。これだけ追い詰められているというのに、だ。
 陛下を排除するには臣下でしかない私の力だけでは無理があった。
 だからこそ、グラバー大公家の力が必要だった。
 王家の血を引きながら、唯一、大公位を受け継いでいる。かの家の存在は大きい。
 長年、反王家の旗頭となっている一族だ。
 裏切りの心配もない。

 全ては国のためなのだ。
 この国を正しい道に戻すために――――そのためには大公家の協力は不可欠。
 だから、だから、だから、だから、仕方なかったのだ!!!