数日後、義母が王都の屋敷にきた。
 数ヶ月後に王宮で「準成人パーティー」が開催される。
 そのための準備だと言えば義父は納得していた。





「……そうね。それが良いのかもしれないわ。ホアン()がアレでは、ね」

 僕と義姉と義母の三人で今後の話し合いをしていた。
 義母は僕の案に賛成してくれていた。

 その理由がアレだった点を除けば概ね望んだ展開になるだろう。



「救いようがありませんわね」

 義姉は呆れていた。
 義父にか、それとも王家にか――――その両方かもしれない。

 義母の話では、義父は僕と義姉の婚約者に大公家所縁の人間をどうかと度々打診してきているそうだ。
 公爵家に相応しい人物だと言っているらしいけど、どうやらそれだけではないみたいだ。義母が調査したところ大公の孫娘と孫息子だった。それだけで義父が何を考えているのかよく分かる。大公家との縁組で互いの利益と政治上の駆け引きがあるようだ。

「ふざけてる」

 僕も怒りを覚えるほどに馬鹿な提案だと思えた。
 前回は王家、今回は大公家。
 いい加減にしろと言いたい。

「ミゲルの怒りは当然だわ。今や王宮の大半を支配下に置いているのは大公家のようだし。ホアンは大公家との繋がりを強固にしたいのでしょうね」

 僕の怒りを見て義母は微笑み浮かべて説明してくれた。
 何でも水面下で国王派と大公派による争いが激化しつつあるらしい。
 
「その都度断わってはいるのだけれど、ホアンの事だから諦めていないと思うわ。それに王家の動きも怪しいのよ」

 王家、というか主に第一王子が義姉を狙っているらしい。
 大公女との婚約を解消して義姉との婚約を望んでいるとか。
 義母は淡々と話しているが目が冷ややかだった。相当嫌がっているのが分かる。

「王都に居ては私もミゲルも危ないですわね」

「ええ。ただでさえ王位継承権問題が絡んでいるわ。ホアンは宰相位を辞める気はなさそうだし。ミゲルの提案は悪くないと思います。ミゲル、良いですか?」
 
「勿論です。準成人パーティーが終わり次第、実行しましょう。構いませんよね? 義姉上」
 
「ええ。よろしくお願いするわ」

 こうして話はまとまった。
 ただ僕にとってはもう一つ話しておく事がある。
 
「ところで……義母上にお聞きしておきたいのですが……義父上の事をどのようなさるのですか?」

 元凶と言っても過言ではない男だ。
 僕の質問を聞いて、それまで笑っていた二人の表情から笑顔が消えた。
 義母は苦虫を噛み潰したような顔になり、そして深い溜息を吐いた。
 
「正直、これ以上愚かな真似をするようならば切り捨てなければなりません」

 そう言って再び大きな溜息を吐き出す義母。相当うんざりしている様子だった。
 
「自分の娘と義息子の人生を大公家に差し出そうとしているのです。どう考えても二人の人生が滅茶苦茶にされてしまうと言うのに、そのことに気付かない。いいえ、疑問も覚えていないようです。そんな人間など必要ありません。それにもうすぐホアンとは離縁する事になっています」

 離婚が正式に決まったら義父を追い出す予定だと言う。
 どうやら僕の想像以上に事態は深刻な様だ。義父の行いを考えると、義母の苛立ちは相当なものに違いない。