頭がフワフワする。
 とても心地いい。

 これは何だろう?
 目が開けられない。

 ゆっくりと落ちていく感覚。
 
 おちていく……ゆっくりとゆっくりと。

 夢の中へ―――――――





 

「いいえ、ミゲル」

 声がする。
 この声は義姉上?

「私は落ち着いているわ。別に悲観している訳でも何でもなくてよ」

 ああ、間違いなく義姉上の声。
 そう認識すると一気に意識がはっきりした。

 はっとして目を開けるとやはりそこには義姉上の姿があった。


「殿下は、このまま聖女を名乗る平民女性との関係を断ち切る気配はないようだわ」

「その様ですね」

 気付くと()()()()
 これは夢だと理解した。

 そしてこの夢は前回の事だと瞬時に悟った。
 どうやら僕はあの時の夢を見ているのだ。

 この場面には覚えがある。

 何故こんな夢を見ているのだろう?いや、考えるのは後にしよう。
 今はただ目の前で会話を続ける二人に注目するだけだ。

 
「殿下にも困ったものね。一体どうなさるおつもりなのかしら?臣下に降るつもりかしら?」

「そんな覚悟など王太子殿下にはありません。愛妾に据えればいいとでも思っているのでしょう。もっとも、そのような事は我が公爵家が許しませんが」

「お父様は許しそうだわ」

「義父上の許可など要りません。あの人に公爵家の事で口出しする権利などありません。僕を跡取りに出来た事で勘違いしているのかもしれませんが、僕が後継者になれたのは飽く迄も義母上の判断故です。大体、婚約者がある身で浮気する方がどうかしています」

「男性は外で愛人を囲う者は多いわ」

「確かに、貴族の男は愛人を持つ事を嗜みだと勘違いしている者もいますが、それでも最低限の礼儀というのは存在します。婚姻前の浮気は契約不履行です。ましてや、殿下は自身の後ろ盾ともいえる公爵家に対して正面から喧嘩を売っているようなものではありませんか!義姉上と婚約していればこそ、立太子できたというのに!!」

「言い過ぎよ」

「言い過ぎなもんですか!義姉上を蔑ろにするなど以ての外!王家が許しても我が公爵家が決して許しません!」

 珍しく声を荒げる僕に驚く素振りを見せながらも、どこか冷静な面持ちで僕の言葉を聞きながら話を進める義姉上。
 それは前回見た時と同じだった。

「早くに母君を亡くされた殿下を私が支えて行かなければと努力してきたのだけれど……どうやら私の努力が足りなかったのでしょうね」

「義父上が何か仰ったのですか?」

「ふふっ。殿下の心を繋ぎ留められなかった私には女性としての魅力に欠けているのではないかと思案していらっしゃるわ」
 
「馬鹿らしい。魅力がないどころか十分すぎるほどあるというのに!!」
 
「まあ!褒め言葉と思っておきましょう」

 嬉しそうに頬を染める義姉上は本当に可愛らしくて思わず見惚れてしまうほど魅力的だと思う。
 ただでさえ絶世の美女と呼ばれるに相応しい義母上と似た容姿をしているのだから尚更である。


 暫く前回の自分と義姉の姿を見ていると別の場面に突如切り替わった。