言い訳を口にしようとしたのだろうか。
 ふがふがと懸命に声をだそうとする。無駄な事だ。この男の言い訳も心にもない謝罪も()()()()()()()()
 
 
 不愉快になるほどに――――
 

「ヴァノッツア様、()()()如何致しましょうか?」

 既にこの男の使い道は決まっている。
 それでも再確認をしておく必要がある。
 
「この人にとってぺーゼロット公爵家は文字通り『国のための道具』だったわ。娘と義息子は自分が好き勝手に使える所有物。邪魔になればすぐに切り捨てられる『消耗品』と言った処かしらね」

 必死に首を横に振る宰相だが、この男に悪意がないのと同じくらいに誠意がなかった。本人は自覚がないかもしれないが、子供を自分の道具扱いしていた。実子以上に可愛がっていたミゲル様にしたってアレはペットを可愛がるのと同じようなものだった。

「貴方にとっては『消耗品の道具』でも私には『可愛い子供たち』だわ。だからこれ以上、あの子たちの人生にホアン・ぺーゼロットの存在は不要なのよ。いいえ、不要どころか汚点になってしまうわ」

 ヴァノッツア様の言葉を聞いて、宰相はムッとした顔になる。
 この男は自分の立場を理解していないのだろうか?
 いや、してないな。ヴァノッツア様の事を未だに『自分の妻扱い』している時点で離縁された事を忘れている。

「自分以外の全てを犠牲にしてでも守りたかった王家を終焉に向かわせた感想を聞きたかったのだけれど、時間がないから手短に言わせていただくわ」

 感情を一切表すことなく淡々と話される内容は宰相に対する痛烈な嫌味だった。子供達の意志を無視し、自由を制限した男に同情の余地はない。

「今回の一件で、つくづく愛想が尽きました。私は貴方を許すつもりは一切ありません。ですが、貴方がこの国を愛しているのも事実。そこを鑑みて、貴方にはレガリアの()()になっていただきます。光栄でしょう?この国の膿である貴方が、()()()()()()()になれるなんて、これ以上はない()()ではないかしら?」

 ヴァノッツア様がそう口にすると、宰相の顔色は青を通り越して白くなった。
 番人の意味を理解してなくても、それが自分の意志と自由を奪うことだけは理解できたらしい。
 
「まぁ、拒否権など最初から用意するつもりはありませんけどね」

 その言葉と同時に、ヴァノッツア様が呪文を唱えると、宰相の周囲に魔法陣が浮かび上がった。
 次の瞬間、宰相の姿は光と共に消えてゆく。

「さようなら、ホアン」

 ヴァノッツア様は別れを告げると、私の方へと振り返った。
 
「待たせてごめんなさいね」
 
「いえ、とんでもない」
 
「それじゃあ、行きましょうか」
 
「はい」

 私が返事を返すと、ヴァノッツア様は満足げに微笑みを浮かべられた。


 さようなら、宰相閣下。