「レイワだよ?心臓移植とか、そーいうのしてる時代でしょ。なのに耳は治せないっておかしいだろ」
「比較的治療しやすいものは後天性のものと言われています。しかし彼女は先天性、幼い頃の対応もずさんに行われていたのでしょう。……補聴器すら付けることができていないのですから」
「……殺したくなるね。ほんっと」
「…だ、だれをでしょうか」
「治せもしない名ばかりの医者と、…最後の愛情すら捨て去った親をだよ」
やめてと、思わずゆーみの袖をつかむ。
聞こえなくとも彼が怒っていることくらいは分かるようになった。
きっと低い声を出していて、きっとその声は怒りに震えていて。
わたしのために、わたしのぶんまで、どうしようもない世の中と理不尽な世界に文句を言ってくれていることくらい。
「…蚊がいるんだよ、そこに」
「ヒッ…!」
ドガァァァン───!!!
「……………」
お医者さんスレスレに向かっていったゆーみの拳が、壁におっきな穴を空けた。



