「さっむ。あのさあ矢野、ここって雪は降らない街のはずだろ」
「都心部は意外と降るんですよ」
「いっそ南国にでも引っ越しちゃおっかな俺」
「…夏は雪国に引っ越したいと言っていたような気がしますが」
「気がするだけ」
外に雪が数センチほど積もっていた朝。
昨夜は降っていなかったが、夜中から朝方にかけてしんしんと降っていたらしい。
季節は巡って年が明けて、出会った秋から冬に移り変わっていた。
“この数式は複雑ではあるが、さっきの公式に当てはめると簡単に解ける”
“これであってる?”
“…正解だ”
わたしの生活は変わった。
毎日数時間の勉強があり、ただいま絶賛数学のお時間だ。
数学を教えてくれるのは矢野さんで、英語と国語にはそれぞれ専門の家庭教師がつく。
────さかのぼって先月のこと。



