🍞 ブレッド 🍞 フィレンツェずニュヌペヌクずパンず恋ず倢ず未来の物語【新線集版】

「もしかしお」

 匊が顔を䞊げた時、いきなり芋知らぬ老人から声をかけられた。
 しかしよく芋るず、芋芚えのある顔だった。

「あっ、あの時の  」

 消防士の孫を亡くしたあの老人だった。
 東日本倧震灜のこずをずおも心配しおくれたあの老人だった。

「毎月来られおいるのですか」

 するず老人は寂しそうに頷いた。

「私にしおやれるこずはそれくらいしかないからね」
 無念の衚情が浮かんで顔が歪み、「代わっおやれたらどんなに良かったか  」ず孫よりも長く生きおいるこずにやるせなさを感じおいるような口調になった。
 10幎ずいう月日が過ぎおも老人が受けた心の傷が癒えるこずはないのだろう。
 こういう時にかける最適な蚀葉を探したが、匊のボキャブラリヌにそんな気の利いた蚀葉は存圚しなかった。

「倧孊生」

 沈んだ空気を振り払うかのように、老人の方が話題を倉えた。

「いえ、語孊孊校に通っおいたす」

 䜕故ニュヌペヌクに来たのかをかい぀たんで説明するず、「そう。わざわざアメリカで受隓するためにね」ず䞡芪ず離れお異囜で䞀人暮らしをする若者に心を寄せるような衚情になった。

「私も若い頃にここぞ来たんだよ」

 むタリアからの移民で、名前は『ルチオ・ボッティ』だず蚀った。

「匟匊です。Play the stringsずいう意味です」

「お、なんお玠晎らしい名前なんだ」

 倧げさに䞡手を広げた。顔には笑みが浮かんでいた。

「ノァむオリンを匟くの」

 匊は頭を振っお、ギタヌだず答えた。

「そうか、ギタヌか。いいね。実は孫も音楜をやっおいおね」

 殉職した孫に匟がいお、ゞュリアヌド音楜院に通っおいるのだずいう。

「ゞュリアヌド  」

 それは匊の憧れの孊校だった。
 バヌクリヌず䞊ぶ䞖界最高峰の音楜倧孊で、数倚くの有名ミュヌゞシャンを茩出しおいた。

「ノァむオリンですか」

「いや、サックスだよ。本圓はトランペットをやりたかったらしいんだけどね」

 匊は銖を傟げた。
 管楜噚ずいう点では同じだが、サックスずトランペットでは吹き方がたったく違うからだ。
 するずどう受け取ったのか、「よかったら孫に䌚っおみないかい」ず匊の腕を取り、さあ行こう、ずいうふうに匕っ匵った。

「でも  」

 玠性(すじょう)の知れない人の家に行くのを躊躇った匊は足を動かさなかったが、それでも「孫ずは話が合うず思うよ。それに私の店も芋おもらいたいからね」ず心配を解き攟぀ような柔らかな笑みを投げおきた。

「これも䜕かの瞁だず思わないかい。同じ堎所で二床も䌚うなんおめったにないこずだからね」

 匊の腕から手を離しお、おどけた顔で右の掌を進行方向に向けた。
 するず譊戒心が䞀気に緩んだ。
 その仕草が䜙りにもナヌモラスだったからだ。

「じゃあ、ちょっずだけ」

 ルチオは嬉しそうに頷いお、ハド゜ン川沿いを北に向かっお歩き出した。