「理由なんて、ない」
「理由もなく制服で会いに来ちゃったんだ」
低く落ち着いていて、甘やかすような声が体中にしみわたって甘さに溶けそう。
この甘さに隠れた見えない何かに囚われたように思考が鈍っていくのがわかる。
「じゃあ、菫に教えてあげる。惚れられている男の部屋に一人で来たらダメだよ」
優衣がわたしの頬に触れた。
ゆっくり存在を確かめるみたいに触れて、すりすりと猫にでも触れるみたいに。
「そして菫は、制服で来たらもっとダメ」
わたしの世界が優衣でいっぱいになっていく。
完全に吞まれている。
「部屋でふたり、制服同士だからただの幼なじみ」
メイド服を着ていないわたしはメイドじゃない。
だから優衣を止められる人もわたしを止められる人もいない。
「菫、前の続きしよっか」
「なに言って……――」
わたしの言葉なんて聞かずに、不意に強い力で引き寄せられたら。
「いや……!ゆい、おろして……!」
「だめ。暴れたら落ちるから」
そのままふわっと抱きかかえられて。いわゆるお姫さまだっこ。



