狂愛×シンデレラ

 ベランダに出ることへ難色を示していた怜も、さすがに窓を開けるくらいは許してくれていた。網戸の方だけだったけど。
 そんなわけで網戸とレースカーテン越しに外の空気を感じていた時だった。

「ひより、そこにいるんでしょう? 無理に答えなくてもいいわ、少しだけそのまま話を聞いてちょうだい」

 せいらの声がした。私を狙う人がせいらの声を真似た可能性もあるけど、直感は間違いなく本人だと告げていた。

 たぶん、せいらはベランダの仕切りぎりぎりに居て、そこで喋っている。
 いくらそれだけ近い位置だとしても、これほどしっかり聞き取れる声量なら、周りに会話がダダ漏れなのではなかろうか。
 それより今日は授業ではなかったか。

 いいや、それ以上に疑問なのは。
 どうして私が居るとわかったのだろう?

「白銀怜の様子が明らかに変わったわ。といってもクラスの大半にはバレていなさそうだけど。それに、白銀怜が一人で暮らしてた時は、ベランダの窓は開けていなかったの。だから、ひよりが部屋にいるんだろうって。ある種の博打(ばくち)だけれどね」

 そこでいったん沈黙ができる。
 なるほどね、と私が納得するためにちょうど必要な時間のあとで、せいらは言葉を続けた。

「で、ひとつ確認したいのが……」

 せいらはそこでまた言葉を切る。
 今度の沈黙はたぶん、せいらが言葉を発するために必要な時間だった。

「……ひより。あなたは今、幸せ?」

 私の口から、ひゅっと息をのむ音がした。