「それで。心当たりはあるにはある、とおっしゃっていましたよね?」
放課後。光石せいらの部屋に場所を変え、差し出されたお茶を飲んだところで、再び問いかけられた。あたしが「白銀怜のことなら」と頷くと、光石せいらはやわらかな笑みを見せる。
「ええ。わたくしが聞きたいのは白銀怜についてです。文化祭を境に変わったとまではわかっても、実際何がきっかけだったのか……」
やはり光石せいらは白銀怜の異常に気づいたらしい。
「ひとつあたしが言えるのは、白銀怜が演技中に転移魔法を使っていたってことです。お気づきになられましたか?」
「……転移魔法?気づきませんでした」
光石せいらは口に手を当てた。劇を思い返しているのだろう。
しかし思い当たる節がないようだ。
「すみません、どのシーンだったか覚えていますか?」
「バルコニーのシーンだと思います。ロミオとジュリエットの位置がかなり離れるシーンですし無理もないです。あたしは白銀怜に魔法をかけたときにたまたま波長を覚えていたから気づけただけなので」
白銀怜とあたしと光石せいらを実力がある順に並べるなら、たぶん白銀怜、光石せいら、あたしの順になる。
白銀怜が本気を出せば、あたしなんかに魔法の使用を悟られることはない。あたしが「白銀怜が魔法を使った」と気づけたのは、白銀怜は演技の最中で、あまり魔法に意識を割けなかったから。
あのときの魔法は、普段の魔法よりもほんのちょっぴりだけ粗があった。
光石せいらは白銀怜の魔力の波長を知らないだろうけど、それでも演技中でなければきっと、あの粗があった魔法には気づけたと思う。
でも、もし光石せいらが演技中じゃなかったら、つまり白銀怜が魔法を使ったのがロミジュリの最中じゃなかったら、白銀怜の魔法は普段どおりの精緻なものになっていて、あたしも光石せいらも魔法の使用に気づけなかったかもしれない。
運命って皮肉だねーと考えていると、光石せいらが申し訳なさそうにたずねてくる。
「ちなみに対象と行き先ってわかったり……」
「えっとですね、観客ひとりを寮に飛ばしたと思います」
ここから。ここからがあたしが話したかった部分だ。
「――妄想ですが、その観客がひよりちゃんなのではと」
そう言って、あたしは口の端を持ち上げ、ふふっと笑った。
やっぱり喋るのって楽しいね。不謹慎かもだけど。


