狂愛×シンデレラ

 ホールはどよめきに包まれた。

 今はバルコニーのシーン。
 小道具をまともに用意できない都合上、バルコニーをどう表現するのかワクワクしていたんだけど、まさか舞台じゃない場所を使うなんて。

「あなたの名前は、本当にロミオなの?」

 切なそうに、けれどハッキリと問いかけるジュリエット。
 ジュリエットがロミオに恋焦がれているのがよく伝わってくる。
 元々の美貌に、恋する乙女に特有のキラキラが相まって、すごく綺麗だった。

 それに応えるロミオも同様。
 叶わぬ恋と知りながら、それでも必死にハッピーエンドへもがく姿はとても美しい。


 ……きらびやかな衣装を身にまとい、熱心に演じるせいらと怜は。
 思っていたよりも。昔の私と怜よりも。ずっとずっと、お似合いに見えて。


 そっと目を伏せ、そしてまた、舞台の上に視線を向ける。
 数か月ぶりに見た怜は、少し疲れていそうではあったけれど、美しさは衰えないどころかさらに磨きがかかっていた。

 怜のことだから、きっとロミオ役に自ら立候補したのではなく押し付けられたのだろう。(ちょくちょく文句を漏らしながらも)なんだかんだ完璧にやり遂げる格好よさは、以前と全く変わっていなかった。

 たぶん怜はこれからもどんどん魅力的になっていく。

 ……こんなに格好よくならなくても。
 こぼれ落ちそうになった分不相応な言葉を飲み込んだ。

 いつのまにか怜とともに生きる前提でものを考えてしまっている。