夜。郊外にあるカフェの2階、住居スペースにて。

 画面から目をそらすことも、パソコンを操作してパンフレットを閉じることもできず、ちゃんと息をしているのかさえ怪しい状態のまま、私はしばらく固まっていた。

 ――怜がロミオ役、せいらがジュリエット役で、ロミオとジュリエットをやる。

 事実を何度も何度も噛み締める。
 いろんな感情がぶり返してきて、過去に戻ったかのようだ。

 いや、もしかしたら、私の心はずっと過去で止まっていたのかもしれない。

「……ソラさん?」

 ニックネームを呼ばれて、私は現在へ引き戻される。

 名字である「青空(あおぞら)」の読み方を変えて、ソラ。
 私・青空ひよりは、色々あって、ここではソラと呼んでもらうことにしていた。

 振り返る。
 声でわかってはいたけど、やっぱりオーナーさんだ。

「あ、ああ、ごめんなさい。パソコン使いますか?」
「別に急ぎじゃないから、満足いくまで使っていいわよ」

 わたわたと告げると、オーナーさんは優しい笑みを浮かべた。

 オーナーさんはここで暮らしながらカフェを経営している。

 オーナーさんはすごく美人で、お人よしで、親しみやすくて。
 ()()()()()()()()()くらいしか身元を証明するものがなかったり、「本名ではなくソラと呼んでほしい」と言ったり、毎日パソコンで白銀学園のホームページを見せてもらったり……。
 ワケあり感が丸出しの私を、こうして住み込みで働かせてくれている。

 あまりにも良い人すぎて、実はここは天国なんじゃないかと思ってしまうほどだ。