俺・白銀怜は頬杖をつきながら、教卓の前に立った光石せいらを眺めていた。

 高2の9月の初頭。ひよりが行方不明になってから半年近くが過ぎた。
 光石せいらの努力もあって、ひよりの存在を忘れないように、かつ前向きに過ごせるような空気が定着している。

 そして、2学期が本格的に始まったということは、つまり9月末にある文化祭に向けての準備に本腰を入れ始めるということでもある。 

「1学期に、舞台発表の題材を『ロミオとジュリエット』に決め、脚本担当さんの立候補を受け付けたのは覚えていますでしょうか?」

 よく通る声で光石せいらが話し始めると、ざわめいていた教室がすっと静まりかえる。

「無事、夏休みのあいだに脚本をあらかた完成させることができましたので、今からデータを配布いたします。脚本を担当してくださったみなさんには、この場を借りて感謝を申し上げます」

 にこりと微笑む光石せいら。

「今日は役割分担と、できれば配役も決めたいと考えています。脚本とセットで役割一覧を載せていますので、何をやりたいか考えておいてください。頃合いを見てアンケートをとります」

 では、どうぞ――と光石せいらがおじぎすると、教室はまた騒がしくなった。

 さて自分はどうするか、と思ったけれど、とっくに答えは決まっていた。
 裏方仕事。それも、適度に楽そうで、立候補者も少ないものがベスト。

 そう思っていたのに。
 現実はそう簡単に上手くはいかないらしい。