2人が去っていった体育館で僕は1人、立ち尽くしていた。
あの人…篠崎さんは怪しい。紗菜ちゃんを見る目こそは優しさに溢れた眼差しだったけど…僕を見る目は、まさに宿敵を見るような、嫌悪と嫉妬が入り混じったような目だった。
編入する前から篠崎家の人間は悪い噂が絶えないと社交界では有名だし、特に篠崎玲都はいい噂なんて聞いたことない。
それに紗菜ちゃんを保健室に運ぶと言っていたけど、本当に貧血が理由なのだろうか。紗菜ちゃんはさっきまで普通に着ていた下のジャージをお腹に巻いていたし、顔は青白く、酷く汗をかいていた。…もしかして篠崎さんが紗菜ちゃんに危害をわざと加えて保健室に行くように促した、?…もしそうだとしたら…僕は到底許すことは出来ない。
…久しぶりだな。こんなに人に殺意を覚えたのは。だけどこれで僕のやることは決まった。
僕が今出来ることは一刻も早く紗菜ちゃんを迎えに行くこと、だ。
