「紗菜ちゃん…!!!!」
涙で滲んで見えない視界にホワイトピンク色が入ってきた。
ゆき、とさん…?
助けにきてくれた、という安堵と、まだ残っている恐怖が入り混じって複雑な感情に染まっていく。
バンッ
痛々しい打撃音が耳に鳴り響く。
私の手首を掴んでいたはずの篠崎さんの姿はなく、打撃音と共に倉庫の壁にその身を打ち付けられていた。
…っ!
宇美原さんに続いて倉庫の入り口は3人の人影が見えた。
きっと今篠崎さんを蹴り飛ばしたのは…チラリと見えた白髪から、新堂さんだろう。
新堂さんは今までのニコニコとした笑顔とは裏腹に、ひどく冷めた、温度のない瞳をしていた。それは白石さんも、紺乃さんも、宇美原さんも…同じようだった。
「篠崎玲都。お前を略取及び誘拐の罪で学園本部に通報済みだ。無駄な抵抗はやめろ。」
紺乃さんのひどく冷たい声が篠崎さんに向けられた。
「…何故ここが分かったんですか。」
震えた声で篠崎さんが尋ねる。
「俺は事前にこの学園の建物、設置物の配置を把握済みだ。この時間と状況を組み合わせて導き出した場所がこの倉庫だっただけだ。」
すごい、この広い月摘学園を登校一日で完全把握するなんて…
紺乃さんの計り知れない頭脳に感嘆の息が漏れる。
「…さすがですね。」
篠崎さんはクシャッと顔を歪ませた。
「貴方たちもご苦労様ですね。こんな仏頂面の女が婚約者だなんて。」
…っ、
篠崎さんがこちらに顔を向けた。
「貴方はいいですよね、大財閥の娘で。今まで苦労なんて一つもせず、生きれて。私は貴方が幸せそうな顔をするたび、憎くて、憎くて、どうにかなりそうだった。」
…っ、返す言葉が、見つからない。
返す言葉に困っていると、今まで黙っていた宇美原さんが急に声を荒げた。
「いい加減にしろ…っ、あんたのものさしで人の苦労を図ろうとするな。」
いつもの宇美原さんからは想像つかないような声色と口調に少し驚きながらも、庇ってくれた優しさが心に滲む。
「雪斗の言うとおりです。貴方のくだらない劣等感で紗菜さんを傷つけた罪を自覚して、一生をかけて償ってください。」
宇美原さんに続けて白石さんが強気な態度で篠崎さんにそう伝えた。
篠崎さんは面食らったような表情をしていて、もう抵抗する様子はなかった。
その姿に安心したのか、私はだんだんと腹部の痛みを感じてきた。
