月摘が消えた。
頭を鈍器で殴られたような感覚。
雪斗達と月摘を探している今も尚、自分とは思えないほどの喪失感を体感している。
……一旦情報を整理しよう。
雪斗の情報によると月摘は篠崎という一応クラスメイトの男に連れ去られたらしい。
月摘の体調が悪いため保健室に連れていくと言っていたらしいのだが雪斗には篠崎の様子が怪しく見えたとのこと。
篠崎、か……
篠崎家といえば100年以上の歴史を持つ老舗企業の1つ。
元々は建設業をメインに事業を展開していたが、最近は食品、建設、旅館業、製薬、ITにも事業を伸ばしていると聞く。
最近代表が変わって経営が上手くいってないと噂になっていたが、月摘家の令嬢を誘拐するまでとは思っていなかった。
……ってそんなことは今どうでもいい。
現在の最優先事項は月摘紗菜を篠崎から奪還することだ。
「とりあえず俺が教師に適当な言い訳をしておくからお前達は先に月摘を探しに行ってくれ。」
本当は教師に言い訳をする時間も惜しいが、俺達と月摘の関係がバレるのは俺達はともかく月摘が嫌がるだろう。
体調が悪いだの適当な言い訳をすることとしよう。
「……わかった。」
いち早く返事をしたのは意外にも新堂だった。いつもへらへらとしている顔がいつになく真面目な様子だった。
「探すと言っても僕たち、この学校に来て1日目だし、紗菜ちゃんが何処にいるかどうか検討がつかないよね…。」
「そもそも学園内にいる可能性の方が低いと思います。学園内にわざわざ誘拐するだなんてリスクがありますから。」
白石の意見はもっともだ。
普通、誘拐ともなると場所や移動など様々な問題が発生してしまう。
そんなことをわざわざ学園内で行う可能性は極めて少ないだろう。篠崎という男もそれほど馬鹿では無いはずだ。
だが、相手はあの“篠崎家“だ。落ちぶれているとはいえ名家中の名家。
この学園内の生徒や教師陣を買収している可能性もある。
そもそもこの学園は名家の令嬢や子息が通うため、外には厳重な防犯システムが設置してある。流石に学園本部である月摘家は買収できないとすると…学園内での方が都合がいいはず。
「…今から俺が指示した通りに動いて欲しい。」
自分以外のために頭を使ったことがなかった俺が、不思議と手を差し出したくなってしまった。
この時俺は気が付かなかった。
…この時感じた初めての想いを。
