「あ…ありがとう。ふふっ、可笑しいね。お姉ちゃん、こんなに大きいのに、泣いちゃあ…」



美里は鼻をずずっとすすり、涙を手の甲に押しつけた。



「アユミ!」



聞き慣れた母親の声に少女は振り返り、



「早く元気になってね」



そう言い残すと、まだおぼつかない足取りで母親のもとへと駆け出した。



ロングコートをまとい、髪をアップにした上品な女性だった。



美里と目が合うと、遠くから一礼を返し、駆けてきた娘の手を繋いで人混みに紛れた。



アユミ…ちゃん、か…



美里はバッグから取り出したハンカチで涙を拭くと、ふーっと長い息を吐き出し、三角形のキャンディをポイッと口の中に放り込んだ。



苺の甘酸っぱい香りに甲状腺が刺激され、唾液がジュワッと溢れ出る。



コロコロ嘗めてカリッとかじると、懐かしい練乳の甘さが舌に広がった。



何だか急に母に会いたくなった。