——静か。
1階はほとんどが外来のため、夜は人の気配がなく病棟とはまた違う雰囲気だ。少し離れた救急外来の方では人の気配を感じるけれど、あとは守衛さんとすれ違ったくらいで、近くには誰もいない。
空調の音だけが、低く一定のリズムで響いている。
小銭を入れ、ストレートティーのボタンを押した。
最近の夜勤は決まってこのペットボトルのストレートティー。コーヒーは好きだけど、仮眠の時に眠れなくなる感じがして、なんとなくこっちにするようになった。
ガタンッと落ちてきたペットボトルを取り出そうとした、その時。
「おつかれさま」
背後から急に声がかかり、肩がビクッと跳ねた。
驚いて振り向くと、瀬名先生が立っていた。
「びっくりした……瀬名先生、お疲れ様です」
白衣を脱いだ黒のスクラブ姿。
夜勤のときにだけ見せる、あの眼鏡をかけた先生は、どこか力の抜けた表情をしていた。
「ごめんごめん、驚かせたね。もう、体調は大丈夫なの?」
そう言う先生は、眼鏡の下で笑っている。
「おかげさまで、もう大丈夫です。その節はありがとうございました」
そう言うと、先生は小さく頷いた。
「よかった」
それだけの一言なのに、なぜか胸の奥がふっと緩む。
歩み寄ってきた先生は、自然な仕草で私の隣に立った。
自販機の明かりと非常口のライトが、ぼんやりと私たちを照らす。


