病棟師長と話した後、ナースステーションを出た俺は深く息を吐いた。
ドクンドクン……
まだ全身で脈打ってるんじゃないかと思う。
廊下を歩きながら、自分の腕の感覚がまだ消えない。
軽すぎる体重。
驚いたように一瞬見開かれた瞳。
そして、腕の中で感じていた温もり。
俺の中の願望が、思わぬ形で実現してしまった。
久しぶりの距離感に不謹慎にも胸が高鳴った。
それにしても、
「……抱き上げるなんて」
自分でも呆れる。
医師として、越えてはいけない距離だった。
分かっている。
分かっているのに。
でも、あの時。
目の前で倒れたそうになった彼女を見た瞬間、考えるより先に身体が動いていた。
(誰にも、触れさせたくなかった)
ひよりを抱いてナースステーションを出るとき、視界の端に重田が見えた。
一瞬しか見なかったが、唇を噛み締めていた。
俺より、ひよりの近くにいたのが彼だったら……
たぶん彼も俺と同じ行動をとったかもしれない。
そう思っただけで、胸の奥がざわつく。


