部屋に戻って、ドアを閉めた瞬間、やっとまともに呼吸ができる気がした。
……はあ。
ソファに腰を下ろして、ぼーっと天井を見上げる。
目を閉じると、自然と今日一日のことが映像として頭に浮かび上がる。
ひよりが笑ったときの顔、少し困った表情。
コーヒーを受け取るときの、遠慮がちな仕草。
視線が合うたび、一瞬だけ戸惑うあの目。
「……ほんと、油断できないな」
無意識に小さく笑ってしまい、目を開けた。
名前を呼びかけて、途中で止めたことを思い出す。
あそこで一歩踏み込んでいたら、
きっと、彼女は拒まなかった。
——だから、踏み込まなかった。
突然訪れた好機に、今まで必死に抑えてきた感情が溢れてくる。
もう、どうしたって止めようがない。
止める気はない。
まだだ。焦るな。
自分に言い聞かせる。
"今の彼女"は、
まだ“俺"を見ていない。


