「あら、そろそろリハビリの先生との約束の時間だわ」
そう言って、梅木さんはゆっくりと立ち上がる。
「吉岡さん、頭で考えてばかりいないで、心に従うのよ」
じゃあ、またね。とやわらかく手を振りながら去っていった。
ひとりベンチに残される。
去っていく後ろ姿をしばらく見つめたまま、動けなかった。
さっきまで交わしていた言葉が、頭の中で何度も繰り返される。
一度聞いただけのはずなのに、不思議なくらい離れなかった。
梅木さんには、私の気持ちも、考えていることも、全部見透かされていたのかな……。
一瞬戸惑ったけれど、今はトクントクンと心地よく脈打っている。
ザァーッと中庭にやわらかい風が吹き、桜の花びらが舞う。
それを見ながら、さっきの言葉を思い出す。
正しいかどうかじゃなくて。
自分で選んだものを、正解にしていく。
その言葉に、胸の奥がざわつく。
今まで、選ばない理由ばかり探していたのかもしれない。
思い出せないことを言い訳にして。
でも、本当は――もう気づいているはずなのに。
どうしたいのかも、誰を選びたいのかも。
それを簡単に認めてしまうことが、言葉にしてしまうことが怖いだけで。
視界いっぱいに広がる淡いピンクを見つめながら、ゆっくりと息を吐いた。
それでも、どうしても、その一歩踏み出すことを、やっぱり頭が拒否する。
『頭で考えてばかりいないで、心に従うのよ』
"心"か……。
心に従う……
私の心はーーー。


