彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません


 「前と同じってわけにはいかないけど、それでもちゃんと動くのよ」

 表情と声のトーンから、いつも陽気な梅木さんでも、少しまいっているのが伝わってきた。

 「……つらかったですよね」

 自然とこぼれた言葉に、梅木さんは少しだけ目を細め、それからやわらかく笑った。

 「つらかったわよ」

 そう言って桜の木を見上げる。

 少し遠くを見ているような横顔で。

 「最初はね、なんで私がって思ったの。薬も飲んでたのに、またかぁってね」

 その言葉に、思わず息をのむ。

 「前みたいに動けないかもしれないって思ったら、正直、しんどくてね」

 ゆっくりと、自分の手元へ視線を落とす。

 指先がわずかに動くのを確かめるように、もう一度そっと動かしてみせた。

 「できていたことが、できなくなるって、思ってたよりずっと堪えるものなのよ」

 私は、何も言えなかった。

 こういう時、なんて言葉をかけたらいいのだろう。

 看護師としてずっとやってきていても、いまだに正解はわからないし、ただただ傾聴することしかできない。

 「でもね、そうやって立ち止まってても、何も変わらないでしょう?」

 一度だけ間を置いてから、やさしく続ける。

 「少しずつでも、前に進んでいくしかないのよね。私、じっとしていられない性分だし」

 フフッと肩をすくめて、微笑んだ。

 その言葉は、決して強くはないのに、まっすぐだった。