「吉岡さん、本当にありがとう」
「いえ、そんな……」
小さく手を振って首を横に振る。
そんな私を見て、梅木さんは優しく微笑んだ。
「いつかお礼をしなくちゃと思っていたの。私がこうしていられるのも、瀬名先生と、吉岡さんのおかげよ」
その言葉に、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
「私は、ほとんど何も……」
反射的にそう言いかけると、梅木さんはゆっくりと首を横に振った。
「そんなことないわよ。私ね、運がよかったと思ってるの。倒れたときに吉岡さんと瀬名先生がいてくれて」
やさしい声だった。ただ当たり前のことのように言われて、言葉が続かない。
あの日の光景が、ふと頭をよぎる。
崩れ落ちる身体と、張り詰めた空気。その中で聞こえていた、落ち着いた声。
「……瀬名先生がいてくださって、本当によかったです」
ようやく絞り出した言葉に、梅木さんはにこりと笑った。
「ええ、本当に。おかげさまで、こうやって今年も綺麗な桜を見に来ることができたわ。……でもね、」
自分の手元へと視線を落とし、ゆっくりと指を動かしてみせる。
以前のようにはいかない、少しだけぎこちない動き。それでも、確かに前へ進んでいることが伝わってきた。


