彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません


 午前の業務がようやくひと段落して、時計を見ると十三時を少し回っていた。予定していた休憩時間はとうに過ぎていて、ようやく一息つける、という感覚に近い。

 「じゃあ、休憩いただきます」

 「はーい、いってらっしゃーい」

 ペアのナースへ伝えて病棟を出る。

 職員食堂へ向かう途中、中庭へと続くガラス扉の向こうに、見覚えのある姿がふと目に入った。

 ベンチに腰を下ろし、ゆっくりと外の空気を吸い込んでいる小柄な女性。

 中庭の桜はちょうど見頃で、やわらかな花びらが風に揺れていた。

 思わず足を止め、扉に手をかけ外に出た。

 「……梅木さん?」

 声をかけると、こちらに気づいた梅木さんがぱっと表情を明るくした。

 「あら、吉岡さん」

 その声に、自然と頬が緩む。

 リハビリ用のシューズに、ゆったりとした服。こうして一人で中庭に出てこられるまで回復している姿に、胸がじんわりと温かくなった。

 「休憩中?」

 「はい、これから休憩です」

 「まぁ、こんな時間に。ほら、ちょっとここ座って」

 梅木さんに促されるままベンチの端に腰を下ろすと、少しだけ間を空けて隣に座った。

 桜の花びらがふわりと舞い落ちる。

 ベンチの足元に、淡いピンクがいくつも重なっている。その上を、やさしい風が通り抜けていく。

 「そうよね、あなたたち忙しいものね」

 梅木さんはくすっと笑い、それからふっと表情をやわらげた。

 「梅木さん、こうやってまたお話できて……本当によかったです」