彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません


 思わず手を伸ばすより早く、隣で瀬名先生がしゃがみ込み、崩れかけた身体を支えながら顔を覗き込む。

 「梅木さん、わかりますか」

 呼びかけに対する反応は鈍く、言葉もうまく続かない。

 さっきまで普通に話していたのに、明らかに様子がおかしい。

 その異変を確信した瞬間、瀬名先生の声が低く落ちた。

 「ひより、119番。再発の可能性が高い。さっきまで会話できてたって伝えて」

 迷いのない指示に、一瞬で空気が張り詰める。

 「はい!」

 スマホを取り出す手がわずかに震えるのを感じながらも、必死に状況を伝える。

 「高齢女性が急に倒れて、意識はありますが反応が鈍くて……」

 うまく言葉がつながらない。

 病院の中とは違う。

 息が浅くなっていく。

 「大丈夫、そのまま伝えて」

 すぐそばで落ちてくる声は驚くほど落ち着いていて、その一言に、どうにか呼吸を整える。

 通話を終えたときには、瀬名先生はすでに梅木さんの頭を支え、顔を少し横に向けて状態を確認していた。

 視線も手の動きも一切迷いがなく、必要なことだけを正確に追っている。

 まだ来ない、と思ったその瞬間、ようやく遠くからサイレンの音が聞こえてきて、張り詰めていた空気がわずかに緩んだ。

 先生と顔を見合わせると、先生はコクッと頷く。